オフィスビル重心

はじめに

人口重心」という概念があります。これは住民全員の体重が同じとしたときの重心であり、総務省統計局が計算しています。人口重心の一点で支えれば、日本国民の体重でバランスが取れるという概念です。

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人口重心の概念図

人口重心の推移によると人口重心岐阜県にあり、国勢調査の度に数キロメートルずつ東南東に移動していることが首都圏への人口集中の現れでもあります。

同じように、オフィスビルの"重心"の変化を調べてみました。ちなみに地球は丸いですが、緯度経度のそれぞれの重心で計算しました。

 

手法

estieが持つオフィスビルデータを使い、人口重心と同じようにオフィスビルの「重心」を求めました。

ただし、主に以下の3点が異なります。

  • オフィスビルの"重さ"は延床面積とする*1
  • 5年ごとに区切り、1957年7月〜1962年6月の間に竣工したビルを、「1960年」のデータとする。つまり「1960年頃に建っていたビル」ではなく「1960年頃に新たに建ったビル」で計算する
  • 市区町村や街区毎ではなく、ビル1棟1棟の緯度経度を用いる

 

結果

下の図のように、東(首都圏)へ移動していました。

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オフィスビル重心の推移(1960年〜2020年)。OpenStreetMapに描画。

1960年頃には岐阜県にあったオフィスビル重心は、2020年には埼玉県と東京都の境あたりまで移動しました。1960年から2020年にかけて、167 kmほど移動しました。人口重心が少し南に移動しているのに比べ、オフィスビル重心はあまり南に移動していませんでした。

 

人口重心が「生きている住民」なのに比べ、オフィスビル重心が「生まれたビル」なので急速に移動する可視化にはなりますが、予想以上に移動していました。徐々に東へ移動していますが、特に1965年頃は、西に比べ東にビルが多く*2建っているようです。また、1980年から2000年頃はあまり動きませんでしたが、2005年あたりからまた東へ移動しています。

 

考察

人口とオフィスビルにはかなり強い相関がありそう*3なので、東へ移動しているのは首都圏への人口集中と関係がありそうです。

1965年付近の出来事と言えば、

でしょうか。特に首都圏という意味ではオリンピックが大きく関係しているかも知れません。2000年頃からも東に移動していましたが、ぱっと思いつきませんでした。

 

私は不動産に関わり始めてまだ1年ほどなので、社内の詳しそうな人に聞いたところ、このデータを見せていないのに

・戦後〜東京オリンピックまでは一気に東京都心に投資が集中(霞ヶ関ビルとか)
・投資、開発が一巡し、バブル前後で地方都市や首都圏郊外でのオフィス開発が進み、分散化(幕張、臨海部など)
・2000〜都心部の空洞化が問題になり都市再生に舵を切る(丸ビル、六本木ヒルズ)国家戦略特区、都市再生特別地区とか→都心部にオフィスが急速に集積

と返ってきて、データにそれが非常に現れているなと思いました。不動産の歴史を知っていてデータで再確認する人が多いかも知れませんが、私はデータを説明する説明が得られてうれしいです。

 

他の仮説

他にも色々考えてみました。

例えば、首都圏のビルは築年数が平均的に短い可能性もあります。平均築年数は首都圏で1996年(26年前)、首都圏以外で1987年(35年前)であり、10年も異なりました。首都圏のビルが比較的新しいこともオフィスビル重心が首都圏に近付いて見えた要因になりそうです*4...が、築30年以内に解体されるビルは少ないと思うので、最近の重心の移動はやはり首都圏への集中と言えそうです。

 

他にも、首都圏に超巨大なビルが1965年頃に建てられた可能性もあります。1965年に日本ビル(50000坪以上)が建っていましたが、日本ビルがあと50棟建ってやっと説明できるほど移動していたので数棟のビルだけで説明できるズレではありませんでした。

 

また、雑に言えば寿命が50〜70年程度と言えそうで、鉄筋コンクリート造のオフィスビルの償却年数である50年とほぼ一致したことも確認しました。

 

おわりに

人口重心という概念をオフィスビルに適用するという思いつきから、不動産の歴史が見えてきたのはおもしろかったです。徐々に首都圏に近付く以外だけでなく波が見えたので、ここからまた100年データをとり続ければ国家戦略や開発の一巡などについて更にわかることが出てくるかも知れません。リモートワークなどの新しい働き方によって、更に違う傾向が現れるかも知れません。

 

そしてこの記事を書いていて、どんなビルが古くなっても解体されにくいかの知見・データが得られそうな記事が思いついたので、またいつか書こうと思います。

www.estie.jp

*1:つまり、延床面積1000坪のビルは延床面積200坪のビル5個分に相当

*2:もしくは延床面積が大きいビルが

*3:千代田区は人口に比べオフィスビルが多いのでなので難しいですね。通勤可能な範囲と言うか...

*4:1965年頃のビルが首都圏に近づいている傾向とは逆ですが...